面倒な決算書の分析。ネットでは色々出ているけど、イマイチしっくりこない。そんな悩みを解決します。
しっくりこない原因は
分析する目的によって違う
目の前にある決算書。それを見る理由は色々です。
たとえば取引先への与信。これはこの取引先に売っていいのか、カネは払ってもらえるかという判断です。要するに倒産しなければ基本はOK。
でも自社の経営分析のためとなると、何かを改善したいという切り口からデータを解析するので、専門的になりやすい。
ほかにも株に投資するためなら、株価が将来高くなるかとか、配当はいっぱい貰えるかとか、そんな視点で分析していきます。
狙いをきっちりせずに一般的な解説を調べまくっても、深みにはまって悩むばかりです。
知識のレベルが違う
もうひとつの注意点は、決算の知識は人それぞれ。初級レベルから専門家顔負けの人まで様々です。
自分に合ったレベルの解説を読まないと、どんどん潜っていく…
ここも肝心なところだと思います。
そこで今回のテーマは初心者専用。しかも『取引先が倒産するかしないか』に限定した分析前に知っておくべき超重要な基本知識です。
知っておくべき知識①貸借対照表の純資産
貸借対照表というのは資産(現金や土地などの財産)や負債(将来返すお金)の状態を表したものです。(参考記事:決算書とは?全体像をざっくりつかむ)
貸借対照表は左側と右側のグループがあって、右側は上と下に分かれています。
この右グループの下が純資産。まずはここを見ましょう。
純資産というのは株主(株式会社の場合)が出資したお金と、過去の儲けの合計額。
ここは多いほど安心な会社になります。その理由は
- 儲かる商売をしてきたから。
- 資産に対する負債の割合が小さくなるから。
二番目の理由はわかりにくいので、説明を加えておきます。
まず貸借対照表の左グループの金額と右グループの合計額は同じになる。これは絶対です。
別な見方をすれば、右グループの上と下がいくらであっても、足した金額は必ず左と一緒になります。
ただ安心な会社かどうかは、右の上と下の金額いかんで全然違う結果に。これをイラストで見てみると…
負債が少ないので、資産をちょっと使えばカンタンに負債を返すことができる。
だから倒産することはなさそう。
負債が多いので、多くの資産を現金化しないと払えそうもない。
だから危ない。
【資産に対する純資産が大きい=資産に対する負債が小さい】から安心だというのは、こういうことからです。
知っておくべき知識②流動資産と固定資産
純資産が多い⇒資産に対して負債が少ない⇒負債を返しやすい。これは正しいのですが、少しだけ考察が必要です。
例えば過去に儲けたお金で土地ばかり買って、資産の大半が土地になっていたら…
土地はすぐに売れません。借金の返済のために土地を現金化しようにも、なかなか難しい。つまり資産が多くても『本当に返せるの?』という場合があるのです。
現金化しやすいモノばかりなら安心なのに…
そこで決算書をみると、うまいこと流動資産と固定資産に分かれている!
流動資産というのは現金や事業の過程で短期に現金化されるもの。固定資産は短期間に現金化されないものです。
ということは流動資産が多いほど倒産リスクは低くなるのです。
知っておくべき知識③流動負債と固定負債
流動資産と固定資産の区分は負債でも同じことがいえます。
たとえば借金。期間6か月なら返済が分割であろうと一括であろうと、半年以内に返済資金が必要になります。
しかし借入期間が3年の場合には、すぐに全額を返済するわけではありません。多くの場合、36回に分けて返済していきます。
そうであれば負債の全額に見合うだけの流動資産はいらない。とりあえず近いうちに支払うものはいくらかな…
ということで負債を見ると
ここも流動負債と固定負債に分かれている!
流動負債は短期に払うもの、固定負債は長期に払うものです。
流動資産が流動負債よりも多ければ、ひとまず安心。
ただ少し注意が必要なのは、固定負債といっても近く支払うものが紛れていることがある!ということ。
たとえば期間3年の借入金。長期借入金だから固定資産でしょ、となる。
しかし返済は毎月あるので、一部は流動負債のようなもの
そこで正しい表記は、1年以内に返済する金額だけ固定資産から流動負債に振り替えるのです。ただそんな処理をする会社ばかりではありません。
ほかには退職金の見積額。退職引当金という科目で固定資産に計上されている会社も多い。でも来月従業員が辞めることになって…
固定資産で見積もってたのに、すぐに現金が必要!
このあたりを注意しながら、資産と負債との関係を見ていくことをお勧めします。
知っておくべき知識④損益計算書
損益計算書というのは儲けがいくらあったかを計算した書類です(参考記事:決算書とは?全体像をざっくりつかむ)
売上がいくらで、費用がいくらだから、利益はこれだけと書いてあります。
まず目がいくのは黒字か赤字か。このときに見る数字は当期利益。損益計算書の一番下にあります。
ただ利益という項目は実は5個あるので、そこも見ないといけません。
売上総利益・営業利益・経常利益・税引前当期利益そして当期利益。下にいくほど減っていくのが一般的。そして全部の利益が黒字なら、いい感じです。
黒字の当期利益から上にさかのぼって営業利益を見たら…赤字!
下ほど減るのに、逆⁉
中身を見てみると…
営業以外の儲けで当期利益を黒字にしているみたい…
でも営業利益は本業の儲けを表したもの。ここが赤字ってことは、あまり良い状態とはいえません。
逆に営業利益が黒字なのに経常利益が赤字なら…
経常利益というのは、通常の事業で得た利益。本業の儲けの営業利益に土地の賃料収入を足したり、借入金の利息を払ったりした後の利益のことです。
そこが赤字ということは、借金だらけで利息が多いのかもしれません。この状態は将来も続く⁉
そう考えると危なそうです。
営業利益も黒字、利息を引いたあとの経常利益も黒字。なのに当期利益が赤字ということもあります。
その場合は特別な損があったのかもしれません。
一過性のものなら、来年はまた黒字になるので問題はないかも…
こうやって損益計算書を観察すると会社の状態がよく見えてきます。
まとめ
『取引先が倒産するかしないか』の分析をするコツは、貸借対照表でも損益計算書でも、大きな柱となっている数字の動きや意味合いを考えることだと思います。
まずはそのために必要な基礎知識を押えることが大切です。
少しでもご参考になれば幸いです。
分析のコツ【比較のポイント】【ペアを考える】もあわせてどうぞ
次回は「決算書分析のコツ①」
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