決算書の読み方や分析がわからない。そんな悩みを解決します。
(貸借対照表・損益計算書の分析前に知っておくべきことはこちら)
今回は比較のポイントです。
比較で使うのは「金額・率・倍数」
目の前にある決算書。特に意識はしなくても、何かと比較しながら見たり考えたりするのが普通です。例をみてみると…
「今期は増収だな」「ちょっと減益かあ…」⇐前期からみて
「純資産がこれくらいあれば安心かも」⇐自分の基準と比べて
ある経営指標の「〇〇率が改善された」⇐以前の率よりも
ここで使っているのは金額と率。そのほかにも【ある数字の平均値の何倍か】というように倍数を使うこともあります。
「金額・率・倍数」の使用例と注意点
金額・率・倍数のどれかがあれば、ほとんどの比較はできます。ただその使い分けは勘定科目や分析の狙いによって違ってきます。
ではいくつかの例をみていきましょう。
例1 売上高
前期からいくら増えたか、まずは気になるところ。
このときの基本は【金額】
次に何%伸びたの?となるので【率】です。
例2 利益
ここでも最初の比較は金額。
ただ損益計算書には5つの利益があって、上から売上総利益⇒営業利益⇒経常利益⇒税引前当期利益⇒当期利益。一般的には下にいくほど金額が小さくなる。そこで少しだけ注意点が…
A社の当期利益をみると、前期が100万円で今期は1万円。
前期より99万円も減益!そこは金額の話なのでOKですが…
これを率で表すと前期比マイナス10000%!
10000%というのは大きすぎて何とも分かりにくい。こんなときは金額だけの比較にするべきです。
例3 借入金
借入金が多すぎると、返済できずに倒産の危険が高くなります。でも【多すぎ】というのはどう判断するのでしょうか。
たとえばB社の貸借対照表をみると借入金が60ある。「これって多いの?」というときに使うのが、【借入金が月商の何倍(何か月分)あるか】という判断方法。それを使えば…
B社の売上は年間120だから月商なら10です。
その月商に対して借入金が月商の6倍もある!つまり6か月分の売上をまるまる返さないといけない…
『仕入も経費もあるのにそれって無理じゃない⁉』と考えていきます。
このように金額や率は使わず、月商という物差しを使うことで判断がしやすくなるものがあります。
客観的に比較する
最後は【何と比較して】ということ。金額・率・倍率のどれを使っても、何かと比較しないと判断ができません。
同業者であれば自分の会社との比較でもいいし、業界の平均値でもいいです。ただこのときに注意したいことがあります。
注意点その1…自分の感覚は使わない。主観的な基準は避けるべきです。
注意点その2…比較するときは経営の実態を考える。この2番目が特に重要!
といって難しいわけではありません。初心者でも出来るし、上級者といってもかなりの人が出来ない不思議な領域なのです。
ではその例をふたつ挙げておきます。
例① 売上総利益の分析
C社は商社。売上総利益が10%です(売上総利益:売上から仕入を引いた利益。メーカーなら材料費や工場の労務費などを引いた利益)
専門家の多数意見では『10%なんて低い⇒イマイチな経営』ということになります。
でも世の中には10%の売上総利益でも、立派に経営をしている会社は数え切れないほどあるのです。
専門家の多数意見で忘れられているのはC社の経営のやり方。C社の販売戦略が薄利多売なら、売上総利益が低いとは断言できません。経営の実態を考えずに数字だけで判断すると、間違いのもとになる典型例です。
例② 在庫の分析
同業のD社とE社。ただD社の決算期は3月で、E社の決算期は9月。
D社の貸借対照表(左側)をみると、まだ売れていない製品在庫と、製品にする前の材料在庫の合計が月商の3か月分ある。
一方E社の在庫は、製品と材料をあわせて2か月分。
この数字だけをみて「D社のほうが在庫が多いから問題だ!」というのは早計です。
D社はシーズンに備えて準備しているのかもしれません。そしてE社の決算期である9月時点で、D社の在庫が1か月だったら…
商売の内容(この例ではシーズン)をよく見れば「D社の在庫が多いから問題だ」とは言い切れないのです。
このように経営のやり方や商売の内容などの経営の実態を観察して、決算書に出てくる数字を考える。あるいは比較する。
決算書の読み方や分析ができるようになるコツはそこにあります。
まとめ
1. 比較で使うものは、金額・率・倍数(月商の何倍とか)
2. 比較にはなっても、意味のないものがある
3. 比較するときは、主観を避けて客観的な基準を使う
4. 経営の実態をよくみて分析する(ここが一番重要!)
少しでもご参考になれば幸いです。
次回は「決算書分析のコツ②」
コメント